開高 健 著『私の釣魚大全』を読んで。その3

HANZO

2005年08月28日 02:26

その3『コイとりまあしゃん、コイをとること』を読んで。

さっそく本文より...

『九州に"コイとりまあしゃん"という非凡の男がいて
 筑後川の淵へもぐり、素手で野ゴイをつかんでくるという...
 まあしゃんはこうとにらんだ淵へ沈むとまちがいなく
 コイを抱いてあがり、ときには両脇にかかえたうえ口に
 一匹くわえてあがってくる文字通りの名人だ...』


なんと。
コイを手掴みにする人っすか!!
おまけに『口に一匹くわえて』って、
想像できますか?
背中をがぶり?
尾っぽをがぶり?
想像がつかない。
しかし、実在した人物である。

福岡県に『鯉の巣食堂』という店があるそうだ。
そこに『コイとりまあしゃん』はいたそうな。

『まあしゃんは澄んだ水を見るとわくわく昂揚してきて
 "殺気"がみなぎり、ドブンといきたくなるが、
 腐ったイワシの目みたいな色を川がしている日は、
 闘志も感興もわかぬ。...
 そんな日にお金を持ってきてもぐってくれんかといわれても
 とうていその気になれない。
 まして、コイを何匹あげてくれるかと聞かれると、ムカッとする。
 わしの"技術"を見たいちゅう人にはいくらでも見せましゅう。
 しかし、それを金で換算しようというやつらは
 てんで誤解しとるタイ。
 ごめんこうむるバイ。』


コイとりの信念と、こだわりの頑固さを感じる。

まあしゃんが語るコイとりの戦法がすごい。
ここに引用すると、すべての文章を
書き写すことになるのでやめるが、
簡単に言うと、こうである。

季節、水質、3日前から準備、淵、
潜る前に準備、潜る、探す、見つける、
接触、捕獲、浮き上がる、獲る。

潜るまでの準備も、独特であるが、
潜ってからのコイの探し方、
見つけてからの捕獲の仕方が、
なおのこと凄いのである。

私も、子供の頃は水中眼鏡にヨモギの葉の汁をすり込んで、
くもり止めにし、ゴムで飛び出すヤス(モリ)を手に、
川に潜っていた。ヤスの先端は3本ではなく1本。
ヤスの先端を親父のグラインダーで削り、鋭利に研いでいた。
しかし、子供の私はコイを仕留めることはなかった。
潜っていくと、コイに見つかって逃げられる。
近くまで行けたとしても、ヤスを放った瞬間に逃げられる。
水中でのコイは驚くほど素早かった。

コイを素手で捕まえる事すら凄い事であるが、
ましてや、コイを誘い出し、抱きとるように捕まえるとは...

「コイは賢い魚ですか?」
「賢いです。とても頭のいいやつがおります。
 いくら網を張ってわたしが攻めても、
 網に引っかからないようによこむきになり、
 首をこう立てて、ツ、ツ、ツと川を走って
 網を飛び越えて逃げてしまうやつがおりまっしゅう。
 かわいいもんですバイ。」


開高さん曰く。

『さてこうして私はかねてからの念願のまあしゃんは
 噂にたがわず名人であり、女好きであり、
 剛健の気風を持していた。
 その技は純潔、無雑である。
 魚を素手でつかむ以上に稚純な、おおらかな、かつ精緻な、
 魚と人とのまじわりかたがあるだろうか。』


『筑後川の生き河童』と呼ばれたコイとりまあしゃん。
こんな凄い人がいたとは。

『この稀れな技の人知れぬ苦心』

まあしゃんを語る、深い言葉である。


まあしゃんを写した写真がホームページで公開されていた。
http://snkcda.cool.ne.jp/mame/3tanusimaru/4hino.html
●田主丸河童族
●鯉とりまーしゃん

すげー。
頭からくわえてる!!

以上『コイとりまあしゃん、コイをとること』を読んで。


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