2005年09月23日
開高 健 著『私の釣魚大全』を読んで。その4
その4『タナゴはルーペで釣るものであること』を読んで。
タナゴという魚がいる。
成魚で3cm~5cmほどらしい。
ちっちゃい。
実のところ、さすがの田舎者の私も、
タナゴ釣りはやったことがない。
タナゴの実物も見たことがないのである。
『タナゴ釣りは江戸時代から伝わる風流で、
その繊細なこと、道具に凝ることはかねがね噂に聞いている...
江戸から明治、大正、昭和、戦後とタナゴ釣りは
けっして途絶えることなくつづいたらしい。
途絶えるどころか、狂気はいよいよ精緻になり、
鈎はいよいよ小さくなり、竿はいよいよ繊細になり、
とうとう今日では世界に比類のない
顕微鏡的釣技が完成されることとなったのである。』
私が住んでいたところの、身近なところでは、
タナゴ釣りはされていなかったように思う。
ここまで酔狂な釣りを楽しむ、粋な人が
いなかっただけなのかもしれないが。
『もし季節はずれの春のうららかな野原で
日光をぬくぬく浴びつつ、タナゴ釣りをしている男がいたら、
そいつは本当のバカというものである。
これは寒風にひょうひょう吹きさらされつつ
バカを実行するところに奇妙な悦びをおぼえる遊びなのだから、
何だってかんだって小さな魚を釣ればよいという
ものでもないのである。
悦楽には、真の悦楽には剛健の気配が
どこかになくてはいけない...
悦楽はそれに溺らせきらさない何事かとの争いのなかに
かろうじて汲みとれる一滴なのである...』
なんとも、『真の悦楽』ときましたか。
『スイスの時計職人が使うヤスリで鈎を研ぐ。
ルーペで覗かないと見えないくらい目がこまかい。
つまりタナゴ釣りは凝ればスイスの時計作りまでの
精度に達する遊びということなのである。
タナゴはルーペで釣るものである。』
魚のサイズが小さいので、すべての道具のサイズが、
小さく、精巧で、緻密なのだろう。
しかし、スイスの時計職人が使うヤスリで鈎を研ぐとは...
おそれいりました。
『師たちはバスのくる土堤の下に集まってめいめいの
釣果を見せ合う。
二百八十匹という人もいるが、五匹という人もいる...
オカメばかり狙ってきた人が餌箱をあけると、
この人は豆級ばかりを攻めたらしく、二百匹ばかり、
おなじサイズの腹のプックリふくれたオカメが
ぞろぞろっと、とびだした...
そして、そのなかに、一センチになるやならずの、
顕微鏡的といいたくなるようなのが、
やっぱり一人前に釣られていて、それはもう鈎に接着剤でも
つけてとってきたのではあるまいかと思いたくなるのである。
この人の釣果には今日一日、ぼうぼうと吹く寒風の中で
一途に行使し、消費してきたこの人の緻密、繊細な、
注意力と凝集力、それにちょっぴり微細の神技を
誇りたい気持ちがよくあらわれていて、
ほほえましかった...』
道具に凝り、季節に凝り、釣果に凝る。
われわれは遊ぶために遊ぶのであるが、
しかし、この遊びは遊びではない。
以上『タナゴはルーペで釣るものであること』を読んで。
タナゴという魚がいる。
成魚で3cm~5cmほどらしい。
ちっちゃい。
実のところ、さすがの田舎者の私も、
タナゴ釣りはやったことがない。
タナゴの実物も見たことがないのである。
『タナゴ釣りは江戸時代から伝わる風流で、
その繊細なこと、道具に凝ることはかねがね噂に聞いている...
江戸から明治、大正、昭和、戦後とタナゴ釣りは
けっして途絶えることなくつづいたらしい。
途絶えるどころか、狂気はいよいよ精緻になり、
鈎はいよいよ小さくなり、竿はいよいよ繊細になり、
とうとう今日では世界に比類のない
顕微鏡的釣技が完成されることとなったのである。』
私が住んでいたところの、身近なところでは、
タナゴ釣りはされていなかったように思う。
ここまで酔狂な釣りを楽しむ、粋な人が
いなかっただけなのかもしれないが。
『もし季節はずれの春のうららかな野原で
日光をぬくぬく浴びつつ、タナゴ釣りをしている男がいたら、
そいつは本当のバカというものである。
これは寒風にひょうひょう吹きさらされつつ
バカを実行するところに奇妙な悦びをおぼえる遊びなのだから、
何だってかんだって小さな魚を釣ればよいという
ものでもないのである。
悦楽には、真の悦楽には剛健の気配が
どこかになくてはいけない...
悦楽はそれに溺らせきらさない何事かとの争いのなかに
かろうじて汲みとれる一滴なのである...』
なんとも、『真の悦楽』ときましたか。
『スイスの時計職人が使うヤスリで鈎を研ぐ。
ルーペで覗かないと見えないくらい目がこまかい。
つまりタナゴ釣りは凝ればスイスの時計作りまでの
精度に達する遊びということなのである。
タナゴはルーペで釣るものである。』
魚のサイズが小さいので、すべての道具のサイズが、
小さく、精巧で、緻密なのだろう。
しかし、スイスの時計職人が使うヤスリで鈎を研ぐとは...
おそれいりました。
『師たちはバスのくる土堤の下に集まってめいめいの
釣果を見せ合う。
二百八十匹という人もいるが、五匹という人もいる...
オカメばかり狙ってきた人が餌箱をあけると、
この人は豆級ばかりを攻めたらしく、二百匹ばかり、
おなじサイズの腹のプックリふくれたオカメが
ぞろぞろっと、とびだした...
そして、そのなかに、一センチになるやならずの、
顕微鏡的といいたくなるようなのが、
やっぱり一人前に釣られていて、それはもう鈎に接着剤でも
つけてとってきたのではあるまいかと思いたくなるのである。
この人の釣果には今日一日、ぼうぼうと吹く寒風の中で
一途に行使し、消費してきたこの人の緻密、繊細な、
注意力と凝集力、それにちょっぴり微細の神技を
誇りたい気持ちがよくあらわれていて、
ほほえましかった...』
道具に凝り、季節に凝り、釣果に凝る。
われわれは遊ぶために遊ぶのであるが、
しかし、この遊びは遊びではない。
以上『タナゴはルーペで釣るものであること』を読んで。
Posted by HANZO at 09:07│Comments(8)
この記事へのコメント
はじめまして、こんにちは
私も、「私の釣魚大全」読んでます。
これからちょうど、タナゴのところです。
文章自体の風が他とは違って、興い。
私も、「私の釣魚大全」読んでます。
これからちょうど、タナゴのところです。
文章自体の風が他とは違って、興い。
Posted by van P at 2005年09月23日 11:51
van Pさん こんばんは
「私の釣魚大全」は読み応えがありますよね。
なにげなく流し読んだ文章に哲学的文言が
隠れていますよね。
釣り人にしかわからない言い回し。
釣り人のみに意味がある言葉。
哲学ですな。
「私の釣魚大全」は読み応えがありますよね。
なにげなく流し読んだ文章に哲学的文言が
隠れていますよね。
釣り人にしかわからない言い回し。
釣り人のみに意味がある言葉。
哲学ですな。
Posted by HANZO at 2005年09月23日 22:53
こんばんわ。
江戸時代には「メダカ」釣りを楽しんでいたそうです。
座敷に手水鉢持ち込んで、小さな針で釣る様をTVでやっていました。
粋・・・とは面倒なことなんですね。
江戸時代には「メダカ」釣りを楽しんでいたそうです。
座敷に手水鉢持ち込んで、小さな針で釣る様をTVでやっていました。
粋・・・とは面倒なことなんですね。
Posted by EGG at 2005年09月27日 06:29
EGGさん こんにちは
『メダカ』っすか。
これもまた小さいですね。
マグロ釣りを経験した人が、渓流のフライに
超熱中しまくりという話も聞きます。
大物釣りを経験したら、小物釣りの楽しさが
より深くなるようですね。
釣り上げた時の釣り人の笑顔は同じですよね。
魚のサイズは関係ないのかもしれないですね。
これまた、釣りの大いなる魅力ですね。
『メダカ』っすか。
これもまた小さいですね。
マグロ釣りを経験した人が、渓流のフライに
超熱中しまくりという話も聞きます。
大物釣りを経験したら、小物釣りの楽しさが
より深くなるようですね。
釣り上げた時の釣り人の笑顔は同じですよね。
魚のサイズは関係ないのかもしれないですね。
これまた、釣りの大いなる魅力ですね。
Posted by HANZO at 2005年09月27日 12:57
はじめまして、HANZOさん。
私も、開高健さんのこの本が好きで、
今でも、ときどき読んでます。
コイとりまあしゃんとか、
イトウの話とかも面白いですね。
開高さんのような生き方ができたら、
楽しいだろうなと思います。
突然、こんなコメントで申し訳ありませんが、
また宜しくお願いします。では。
私も、開高健さんのこの本が好きで、
今でも、ときどき読んでます。
コイとりまあしゃんとか、
イトウの話とかも面白いですね。
開高さんのような生き方ができたら、
楽しいだろうなと思います。
突然、こんなコメントで申し訳ありませんが、
また宜しくお願いします。では。
Posted by adman at 2005年11月03日 06:29
adman さん、はじめまして。
釣りは楽しいですね。
生き方も変わりますね。
全てのライフスタイルの中核を成してますよね。
靴を買うのも釣り基準。
デジカメ買うのも釣り基準。
車選びも釣り基準。
釣りを嫌いになることなく、
釣りに嫌われることもなく、
釣りと楽しく付き合っていきたいですね。
釣りは楽しいですね。
生き方も変わりますね。
全てのライフスタイルの中核を成してますよね。
靴を買うのも釣り基準。
デジカメ買うのも釣り基準。
車選びも釣り基準。
釣りを嫌いになることなく、
釣りに嫌われることもなく、
釣りと楽しく付き合っていきたいですね。
Posted by HANZO at 2005年11月05日 01:40
HANZOさん はじめまして
足あとから辿ってやってきました。
渓流オフシーズンの手慰みになればと最近タナゴ釣りを始めたのですが、これがフライフィッシングに負けず劣らず奥が深かそうで、かなりヤバそうな釣りであると感じております。来シーズンは老眼鏡買わなくてはいけないようです。(笑)
「私の釣魚大全」、ずいぶん前に読んだ記憶がありますが、内容はすっかり喪失しておりました。この機会にまた読み返してみたいと思います。
足あとから辿ってやってきました。
渓流オフシーズンの手慰みになればと最近タナゴ釣りを始めたのですが、これがフライフィッシングに負けず劣らず奥が深かそうで、かなりヤバそうな釣りであると感じております。来シーズンは老眼鏡買わなくてはいけないようです。(笑)
「私の釣魚大全」、ずいぶん前に読んだ記憶がありますが、内容はすっかり喪失しておりました。この機会にまた読み返してみたいと思います。
Posted by Tamakura at 2005年12月12日 13:05
Tamakura さん こんにちは。
タナゴ釣りを始められましたか!
是非、Tamakura さんのタナゴ道をBLOGで紹介してください。
奥が深いとは、すばらしい。
よい釣りを見つけられましたね。
タナゴ釣りを始められましたか!
是非、Tamakura さんのタナゴ道をBLOGで紹介してください。
奥が深いとは、すばらしい。
よい釣りを見つけられましたね。
Posted by HANZO at 2005年12月14日 12:33
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。